ゆっくり呼吸を5分続けると、心拍変動(HRV)はどれくらい動くのでしょうか。英国の軍関係者の男性962人を調べた研究が、その大きさを数字で示しました。
この研究では、通常の呼吸を5分、続けて1分6回のゆっくり呼吸を5分行ってもらい、心電図から二つの呼吸中のHRVを比べています。
- HRVの代表的な指標RMSSDの中央値は、通常呼吸の40.06 msから、ゆっくり呼吸では56.01 msへ。一人ひとりの差の中央値は12.12 msでした(中央値は順に並べた真ん中の値、msは1000分の1秒です)。
- RMSSDの上がり幅は、普段の呼吸が1分15回未満の人で13.65 ms、15回以上の人で19.19 ms。15回以上の人のほうが大きくなりました(モデルで推定した値)。
つまり、呼吸のリズムを変えるだけで、この集団のHRVは全体として大きく動き、その動き方は普段の呼吸数によっても違っていました。この研究は男性の軍人・退役軍人を対象に呼吸中の5分間のHRVを測ったもので、アーシング(接地)を調べた研究ではありません。
それでも協会がこの研究に注目するのは、アーシングの研究でもHRVが測られ、接地中に呼吸数が変わったという報告もあるためです。接地の前後でHRVを比べるとき、呼吸の影響はどこまで数字に表れるのか。その手がかりとして、この研究を読み解きます。では、どのような条件で測った研究なのか、順に見ていきましょう。
英国軍関係者962人に、通常呼吸とゆっくり呼吸を5分ずつ行ってもらった研究
HRVと、この研究で使われた指標
HRVは、心拍と心拍の間隔が刻々とゆらぐ、そのゆらぎの大きさを見る指標です。心臓は時計のように一定の間隔で打っているわけではなく、体を休ませる側の自律神経(副交感神経)と、活動する側の自律神経(交感神経)の働きで、間隔が少しずつ変わっています。この研究では、次の指標が使われました。
- RMSSD:隣り合う心拍の間隔の差から求める指標です。論文は、副交感神経の働きの目安として扱っています。
- SDNN:心拍の間隔全体のばらつきの大きさです。論文は、ゆっくり呼吸の最中は副交感神経の寄与が中心になると説明しています。
- LF(低周波パワー):心拍のゆらぎのうち、ゆっくりした周期の成分の大きさです。論文は、1分8.5回以下の呼吸ではLFが迷走神経(副交感神経の主な経路)の活動を表すとしています。
- HF(高周波パワー):心拍のゆらぎのうち、より速い周期の成分の大きさです。
対象と手順
対象は、2003〜2014年にアフガニスタンへ派遣された英国の軍人・退役軍人を追跡する研究(ADVANCEコホート。同じ集団を長く追いかける調査)に参加した男性962人です。派遣中に重い戦闘外傷を負った467人と、年齢や階級などをそろえて選ばれた負傷していない495人が含まれ、年齢の中央値は37.6歳、派遣・負傷から平均11.5年が経っていました。
測定は午前8時から正午の間に、温度が管理された静かな部屋で行われました。単誘導の心電図をつけたまま、まず通常の呼吸を5分、続けて1分6回のゆっくり呼吸を5分行い、同じ人の二つの状態を比べています。ゆっくり呼吸は音の拍子に合わせる方法でした。
「普段の呼吸数」は、通常呼吸の5分間の心電図から算出した値で、1分15回以上かどうかで2群に分けられました。15回という線は、心理的な苦痛の目安とされた先行研究の基準にならったものです。
結果:ゆっくり呼吸で、RMSSD・SDNN・LFが上がった
指標ごとの変化
表の呼吸数はHz(ヘルツ)という単位で、1秒あたりの回数を表します。0.1 Hzは10秒に1回、つまり1分6回にあたります。通常呼吸とゆっくり呼吸の主な値は次のとおりです(表2。呼吸数と心拍数は平均、HRVの指標は中央値)。
| 指標 | 通常呼吸 | ゆっくり呼吸 | 差 |
|---|---|---|---|
| 呼吸数(平均) | 0.22 Hz | 0.12 Hz | −0.10 Hz |
| RMSSD | 40.06 ms | 56.01 ms | 12.12 ms |
| SDNN | 42.07 ms | 76.49 ms | 30.20 ms |
| LFパワー | 776.67 ms² | 4732.51 ms² | 3446.11 ms² |
| HFパワー | 534.09 ms² | 447.74 ms² | −63.06 ms² |
| 心拍数(平均) | 58.63 拍/分 | 61.42 拍/分 | 2.78 拍/分 |
表の「差」は各参加者の前後差をまとめた値で、各列の中央値どうしを引いた値とは一致しません。なお、原著の要旨には人数や一部の結果について本文・表と異なる記載があります。本記事では対象人数は本文の467人+495人=962人、数値は表2・表4を採用しています。
RMSSD・SDNN・LFは、いずれもゆっくり呼吸中に大きくなりました。一方で、HFは小さくなり、心拍数も上がっています。HRVの指標すべてが同じ向きに動いたわけではありません。心拍数の上昇について著者は予想外だったとし、拍子に合わせて呼吸すること自体が、慣れない人にはわずかな緊張になった可能性を挙げています。
普段の呼吸が1分15回以上の人は、上がり幅が大きかった
普段の呼吸数で分けると、ゆっくり呼吸による上がり幅を2群で比べました(表4)。年齢や服薬などを調整したモデルでの推定値で、括弧内は推定値のふれ幅の目安(95%信頼区間)です。
| 上がり幅 | 普段の呼吸が1分15回未満 | 普段の呼吸が1分15回以上 |
|---|---|---|
| RMSSD | 13.65 ms(12.12〜15.18) | 19.19 ms(16.99〜21.40) |
| SDNN | 30.15 ms(28.27〜32.04) | 39.27 ms(36.49〜42.05) |
| LFパワー | 4410.28 ms²(4009.34〜4811.23) | 5017.20 ms²(4425.78〜5608.62) |
三つの指標とも、普段の呼吸が1分15回以上の人のほうが上がり幅は大きくなりました。

一方、戦闘による負傷の有無は、HRVの上がり方を有意に変えませんでした。RMSSDとSDNNでは、6分間歩行距離(体力の目安)でも違いが見られず、週あたりの中高強度の身体活動量(自己申告)もHRVの上がり方を変える要因としては確認されませんでした。
科学的な説明:1分6回の呼吸がHRVを大きく動かす理由
HRVが呼吸のリズムと強く結びついていることは、これまでの研究で知られています。息を吸うと心拍が速くなり、吐くと遅くなるというゆらぎがあり、これを呼吸性洞性不整脈と呼びます。論文の序論は、1分6回(0.1 Hz)の呼吸では、このゆらぎや、血圧の変化に合わせて心拍を調節する圧受容体反射の感度に関わる変化が起きると整理しています。
この仕組みを詳しく論じた総説(Lehrer & Gevirtz, 2014)は、1分6回付近で呼吸と心拍の振動が共鳴し、圧受容体反射の働きが強まると説明しています。また、ゆっくり呼吸の研究223件を整理したメタ分析(多数の研究の結果をまとめて統合する分析。Laborde ら, 2022)は、呼吸中、呼吸の直後、複数回の練習を重ねた後のいずれの時点でも、迷走神経由来のHRVが増えたと報告しました。今回の研究でも、呼吸数が平均0.22 Hz(1分あたり約13回)から0.12 Hz(約7.2回)へ遅くなり、HRVの指標が大きく動いています。
普段の呼吸が1分15回以上の人で上がり幅が大きかったことについて、著者は、普段の呼吸がゆっくり呼吸の拍子から離れた状態から切り替えるぶん、大きな反応が見込まれるという先行研究と重なると述べています。同時に、呼吸数が高い理由がストレスなのか、ほかの健康状態なのかを考えて解釈する必要があるとも述べています。この研究では、ストレスを直接示す血液などの指標は測られていません。
この研究の条件と読み方
測られたのは、5分間のゆっくり呼吸の最中のHRVで、呼吸をやめた後に上昇が続くかどうかは調べられていません。また、普段の呼吸数と上がり幅の間の相関は、ほとんどない〜弱い程度にとどまっています。ここまでの数値は、この条件のもとで測られたものです。
アーシングとの関係:HRVを比べる研究で、呼吸数が持つ意味
アーシングの研究にも、呼吸数を測ったものがあります。Chevalierによる2010年の研究は、おおむね健康な成人28人(男女各14人、18〜80歳)が、リクライニングチェアで2時間の測定を受ける設計でした。接地前の40分、接地中の40分、接地後の40分を、偽の接地(シャム)の日を対照にして比べた二重盲検(参加者と測定担当者に、接地か偽の接地かを知らせない方法)の試験で、皮膚コンダクタンス(皮膚の電気の通しやすさ)、血中酸素化、呼吸数、脈拍、灌流指数(指先などへの血流の目安)の5つの指標が報告されています。要旨によると、皮膚コンダクタンスは接地で即座に低下し、呼吸数は接地中に増え、接地を外した後も続きました。ゆっくりになったのではなく、増える方向の変化です。
HRVについては、接地の研究をまとめた2012年の総説が、リクライニングチェアで2時間の接地と偽の接地を無作為な順で行った27人の二重盲検試験で、接地中に統計的に有意なHRVの変化があったと紹介しています。ただし、この総説は元の論文を引いた記述で、協会では元論文を確認できていません。また、総説の著者の一部には、接地に関わる企業との関係が開示されています。
今回の962人の研究は、呼吸のリズムを変えるだけでHRVの数字が大きく動くことを、大人数の実測で示しました。接地の前後でHRVを比べる研究では、呼吸数もHRVの数字を動かしうる要素のひとつです。アーシング研究と今回の研究は、「呼吸数」という共通の測定変数でつながります。
協会の考察:呼吸数を手がかりにした、健康への仮説と可能性
ここからは研究の事実ではなく、協会の考察です。アーシングの効果が確認されたわけではありませんが、今回の研究と関連研究を土台に、人の健康にどんな可能性が考えられるかを整理します。
仮説1:呼吸数を切り分ければ、接地と休息側の自律神経の関係が見えやすくなるかもしれません
土台は二つです。今回の研究で、呼吸を変えるだけでHRVが大きく動いたこと。そしてChevalierの研究で、接地中に呼吸数が変化したことです。協会では、接地の前後でHRVを比べるときは、呼吸数の違いがHRVを動かしている可能性を切り分けて見る必要があると考えています。呼吸数の影響を切り分けて見られれば、接地が体を休ませる側の自律神経に関わる可能性を、より確かな形で確かめられます。確かめるには、接地と偽の接地を無作為な順で行い、呼吸数を同時に記録して、HRVを呼吸数で調整する(あるいは同じペースで呼吸した状態で比べる)研究が考えられます。
仮説2:接地とゆっくり呼吸は、同じHRVの物差しで並べて観察できるかもしれません
接地もゆっくり呼吸も、体を休ませる側の自律神経の動きをHRVで見ることができます。座っている時間や眠る前の時間など、同じ場面で、接地だけの日、ゆっくり呼吸だけの日、両方行った日を呼吸数の記録つきで比べれば、二つがどう重なるのか、あるいは重ならないのかが見えてきます。こうした観察から、日常の休息の時間を支える方法として、接地の位置づけが整理できる可能性があります。
協会では、そのうえで、接地が人の休息や睡眠の質を支える可能性があると考えています。手がかりは、接地と睡眠を調べた小規模な報告(Ghaly & Teplitz, 2004)です。睡眠・痛み・ストレスの訴えがある12人が、8週間、導電性のマットパッドで接地して眠り、夜間の唾液コルチゾール(ストレスに関わるホルモン)が低下し、睡眠・痛み・ストレスの症状はほぼ全員で軽くなった(または消えた)と自己申告しています。対照のない小さな予備的研究でHRVは測られていませんが、休息側の自律神経をHRVで見る今回の流れと、同じ「休息」の方向を指す材料として、協会は注目しています。
仮説3:普段の呼吸数によって、接地の場面でも変化の出方が違うかもしれません
今回の研究では、普段の呼吸が1分15回以上の人でゆっくり呼吸の反応が大きくなりました。協会では、接地の場面でも、普段の呼吸数によってHRVの変化の出方が違う可能性があると考えています。協会の測定でも呼吸数を記録項目に加えて、普段の呼吸が15回以上か未満かで分けて見ることができます。誰に変化が出やすいのかが分かれば、アーシングを生活に取り入れる人の目安づくりにつながるかもしれません。
結び:屋内の接地で、自分の呼吸を観察する5分から
HRVの数字の背景には、呼吸があります。そして呼吸は、座っている時間にも、眠る前にも、自分で気づくことができます。ここからは研究の結果ではなく、協会からの提案です。
- アース付きのマットやシーツなどを使って、屋内で接地した状態で、楽な姿勢で座ります。
- 時計を見ながら、普段どおりの呼吸を1分間数えます(吸って吐いて1回)。論文の「普段の呼吸数」は心電図から算出した値なので、数え方は少し異なります。
- 次に、心地よく続けられる範囲で、吸って5秒、吐いて5秒を目安にゆっくり呼吸を試します。1分6回・5分間は研究の条件であり、無理に合わせる必要はありません。
- 終わったら、普段の呼吸数、ゆっくり呼吸のしやすさ、気分や眠りの様子を、一言ずつ日記に残します。
息苦しさやめまい、不調が出たら中止して普段の呼吸に戻してください。治療中の方は、呼吸の練習や接地の実践について担当医に相談し、通院や服薬の代わりにはしないでください。
接地している時間は、そのまま自分の呼吸やからだのリズムに気づく時間にもなります。寝ている間のアース付きシーツ、デスクワーク中のアース付きマット、あるいは裸足で土や芝生に触れる時間と合わせて、記録を続けてみてください。数日分の記録が、ご自身の休息の時間を見つめ直す手がかりになるかもしれません。
関連する研究と実践
アーシングの仕組み・研究・実践方法 / アーシングの仕組みと健康への可能性
出典
- Maqsood R, Schofield S, Bull AMJ ほか. “Markers of benefit”: the influence of physiological and physical factors on the relationship between slow-paced breathing and heart rate variability. European Journal of Applied Physiology. 2026. DOI: 10.1007/s00421-026-06470-9(オープンアクセス。研究はADVANCE Charityを通じて助成されています)
- Lehrer PM, Gevirtz R. Heart rate variability biofeedback: how and why does it work? Frontiers in Psychology. 2014. PubMed Central
- Laborde S ほか. Effects of voluntary slow breathing on heart rate and heart rate variability: A systematic review and a meta-analysis. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2022. PubMed
- Ghaly M, Teplitz D. The biologic effects of grounding the human body during sleep as measured by cortisol levels and subjective reporting of sleep, pain, and stress. Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2004. PubMed
- Chevalier G. Changes in pulse rate, respiratory rate, blood oxygenation, perfusion index, skin conductance, and their variability induced during and after grounding human subjects for 40 minutes. Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2010. PubMed
- Chevalier G ほか. Earthing: health implications of reconnecting the human body to the Earth’s surface electrons. Journal of Environmental and Public Health. 2012. PubMed Central
